胸部大動脈瘤は上行大動脈から胸部下行大動脈に生じる動脈瘤です(図1)。
自覚症状はない場合が多く、胸部レントゲン異常やCT検査などで偶然指摘されることで発見されます。弓部大動脈瘤の場合は動脈瘤が反回神経を圧迫することに伴う嗄声(かすれ声)が出現することもあります。
形状により紡錘状、嚢状に分けられ、紡錘状であれば60mmで治療適応となります。嚢状の場合は60mm以下でも治療適応となることが多いです。
また動脈瘤自体の成因によっても分類があり、動脈硬化等に伴うの動脈変性で動脈壁全体が拡張する真性瘤、大動脈壁が破綻することで血管外に生じた血腫により瘤状構造物となる仮性動脈瘤、大動脈解離に伴い動脈径拡大をきたした解離性大動脈瘤に分類されます(図2)。
大動脈瘤は上記の手術適応になるまでは降圧療法などにて経過観察します。手術が必要と判断された場合の手術法としては、人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。人工血管置換術は従来から施行されてきた治療法で、開胸して動脈瘤を切除したのちに人工血管にて動脈を取り換える手術です。この方法は確実に動脈瘤を切除できることと長期成績の面で利点がありますが、開胸操作や人工心肺下に心停止を伴うため侵襲が高いことが欠点となります。
対して、ステントグラフト内挿術は大腿動脈から人工血管に金属のバネを組み合わせたステントグラフトを細く折りたたんで大腿動脈から大動脈瘤まで挿入して大動脈瘤を血管内で空置させる、いわゆるカテーテル治療となります。この方法はそけい部(足の付け根)の手術創が小さいため非常に侵襲が低いことが利点となりますが、動脈瘤自体が残存するため一部症例では動脈瘤内に血液が再流入することに伴い再治療を要する可能性があること、長期成績が明らかではないことが欠点となります。
患者さんの基礎疾患や全身状態によってどちらの手術を行うか決定します。一般的には上行大動脈瘤および弓部大動脈瘤の場合は人工血管置換術がまず考慮されますが、一部症例ではステントグラフト内挿術を施行する場合もあります。胸部下行大動脈瘤はステントグラフト内挿術の良い適応です(図3)。