最先端の手術

ハイブリッド手術

2015 年4 月当院で待望のハイブリッド手術室が完成し県内初となる同施設を利用しての血管内治療が始まりました。ハイブリッド手術室とは手術台と心・血管透視装置を組み合わせた手術室のことで、今後当院で施行予定の経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI) や大動脈瘤・大動脈解離に対しての複雑なステントグラフト治療 (TEVAR・EVAR) が可能となります。昨年度までは県内の他病院と同じく移動式の透視装置を手術室で用いてステントグラフト治療を行っていたのが現状でしたが、正確なステントグラフト留置と近年の多様化かつ高度な手術方法に対応するには装置自体が旧式で低解像度であり不十分なものとなってきました。

当院ハイブリッド手術室 (SIMENS Artiz Q)

また、手術難易度に伴い造影剤量の増大と長時間の透視による放射線被曝も計り知れません。今後そういった症例が増加することが予想され、安全で確実な手術を施行するためにもハイブリッド手術室は必要不可欠です。 以下当施設の特徴をご紹介致します。

放射線被曝量・造影剤使用量の低減化

現在複雑化する心・血管透視装置を用いた治療の患者様及び医療従事者の放射線被曝量の増大や造影剤腎症が問題となっており、どこの施設でもその低減化に努めております。当ハイブリッド手術室の透視放射線量は従来の移動式透視装置よりも線量の少ない心臓カテーテル室のそれの約半量で十分に明瞭な画像を写しだすことができます。それに伴って造影剤使用量も半量に低減することが可能となりました。また、術前3DCT 画像を実際の透視画面に融合すること(FUSION) で手術のナビゲーションとして利用可能です。今後おそらく本邦でも導入されるFenestrated & branch device を使用した手術において絶大な威力を発揮し、さらなる手術時間の短縮 ( 透視時間の短縮) と造影剤使用量の低減化を図ることができ、腎機能障害症例や術前併存症によりハイリスクと言われるような患者様にもクオリティの高い手術ができると考えております。

FUSION 術中ナビゲーション

術中治療評価と入院加療の短期化

もう一つのハイブリッド手術室の特徴として、透視装置でCT を撮影できるDynaCT システムが挙げられます。現在ステントグラフト留置後、血管造影撮影を確認し異常がなければ手術を終了しておりますが、それ単独では小さなエンドリークやステントグラフト内腔狭窄等の評価が不十分なことがあります。Dyna CT を撮影しその場で異常が指摘できればそのまま追加治療を行うことができ、後日撮影したCT で異常が指摘され追加治療をするといったケースが減少します。
また、Dyna CT で何も異常がなければ再度入院期間中にCT を撮影する必要性がないので入院期間中の総造影剤使用量も削減できます。( 通常の造影CT は造影剤を約100ml 使用しますが、Dyna CT では20 ~ 30ml しか使用しません。) さらに入院期間の短縮を図ることができ、若年患者様の早期社会復帰や高齢者のADL 低下の防止に繋がり強いては微々たるものですが医療費の削減に寄与するものと思われます。

Dyna CT 術中画像構築し評価する

緊急症例への対応 ~破裂性腹部大動脈瘤治療プロトコール~

急性大動脈解離、大動脈瘤破裂と近年では急性大動脈症候群と称され当院でも緊急症例に可能な限り対応しております。
ハイブリッド手術室は緊急症例にこそ威力を発揮するツールであり、診断から治療まで遅滞なく行うことができます。ハイブリッド手術室の稼働に合わせ、破裂性腹部大動脈瘤治療プロトコールも完成しました。これは、いち早く大動脈閉塞用バルーンを挿入し血行動態を安定化させ、ステントグラフト治療もしくは開腹人工血管置換術に迅速に移行する治療アルゴリズムです。当科だけでなく救命科・手術室・放射線科スタッフと蜜に連携し迅速な治療を推し進める必要があり、言わば究極のチーム医療です。体制が整い次第軌道に乗せ、県内外の急性大動脈症候群の救命率向上に寄与していきたいと思います。

おわりに

大動脈瘤・大動脈解離に対するステントグラフト治療が始まって来年で10年の節目になります。治療法自体は広く一般化し、もはや珍しいものではありません。しかし当初に比較し、疾患の複雑化や高齢重症例、緊急手術や再治療症例のご紹介もみられ手術難易度ははるかに高いものになってきています。一方でなるべく小さな創で体にやさしい低侵襲治療を時代が要求しているのもまた事実であります。当院ではこのハイブリッド手術室を最大限に活用し、血管内治療成績の向上とさらなる低侵襲治療を目指し地域の皆様に貢献していきたいと思います。