重症心不全に対する最先端の治療

心不全とは

心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能の低下が起き、心拍出量(心臓から送り出す血液の量)が低下して身体が必要とする十分な血液量が供給できなくなった状態のことをいいます。全身の臓器に血液が十分行き渡らなくなり、また全身で血液が滞(とどこお)ってしまうため、様々な症状が起こり、最終的には死に至る病気です。

● 心不全により起こる症状

身体に血液が滞ってしまう「うっ血」による症状
・食欲不振
・夜間の呼吸困難や咳
・むくみ、体重の増加
全身に必要な血液を十分に送り出せないことによる症状
・全身倦怠感
・坂道や階段での息切れ
・手足が冷たい感じ
・日中の尿量現象

心不全の原因

心不全とは様々な心臓疾患の最終像であり、高血圧や不整脈などあらゆる病気から心不全になり得ます。その中でも心不全が重症化する病気として、特に多いもののひとつが心筋梗塞をはじめとする、心臓の冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る血管)の病気です。心筋梗塞は動脈硬化で冠動脈が詰まってしまうことにより、心臓の筋肉が壊死してしまうことで起こります。心筋梗塞と並んで重要な原因として、心臓の筋肉に生まれつきの異常がある「特発性心筋症」と呼ばれる病気があります。この病気は原因がはっきりしておらず、生まれてすぐ発病する方もいれば高齢になってから病気を持っていることがわかる方もいます。またウイルス感染(いわゆる風邪です)などをきっかけにして、自分の免疫反応(ばい菌をやっつけるために身体に備わった攻撃力)が心臓の筋肉を攻撃してしまい、心臓の動きが悪くなる「心筋炎」という病気もあります。そのほか、心臓の弁膜症から起こるものや、産まれつきの心臓の病気に伴うものなど、様々な原因で心不全は起こります。

心不全の原因

心不全の治療

心不全の治療には、禁煙、肥満の改善、適度な運動をしてストレスを避ける、などの生活習慣の改善が非常に重要で、これだけで症状が良くなる患者さんもたくさんいます。さらに高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病に対する治療も非常に重要です。それでも良くならない心不全に対しては、利尿剤やβ遮断薬と呼ばれるお薬による治療が行われます。しかしながら心不全は、ある一線を越えると生活習慣の改善やお薬の治療だけではよくならず、進行して行ってしまうことがあります。十分なお薬による治療をおこなっても症状が改善せず、進行して行ってしまう心不全の段階を「ステージD」と呼び、さらなる強力な治療が必要になります。重症心不全に対する治療としては、「心室再同期療法」と呼ばれるペースメーカーを用いた治療が有効なこともありますが、最終的には「補助人工心臓」という機械を用いた治療や、「心臓移植」が必要になることもあります。

重症心不全はどれくらい怖いのか?

グラフをご覧ください。これは過去にアメリカで行われた臨床研究の結果を引用したものです。最大限のお薬による治療を行っても心不全が改善せず、心臓移植が必要だけど年齢などなんらかの事情で心臓移植が受けられない患者さんを、そのままお薬の治療を継続するグループと補助人工心臓手術を受けるグループに分けて、治療開始後の生存率を調べた研究です。横軸が治療開始後の期間(月)、縦軸が生存率(%)を表しています。これによると、お薬の治療を継続したグループでは12ヵ月後の生存率が27%、24ヵ月後の生存率が8%でした。すなわち、心臓移植や人工心臓が必要と判断されるほど心不全が進行してしまうと、それらの治療を受けなかった場合には2年後に生きている確立が8%しかない、ということです。

左室補助人工心臓:Left Ventricular Assist Device (LVAD)

命の危険が差し迫った重症心不全に対するもっともよい治療法は、現在のところ心臓移植であると言われています。しかしながら心臓移植は、それを必要とする患者さんの数に対して実施件数が非常に少なく、特に日本では待機期間の長期化が問題になっています。実際に心臓移植の待機を登録してから移植を受けられるまでには3年から5年も待たなくてはならないと言われています。その移植待機期間を患者さんが安全に過ごすために、心臓の働きをサポートする機械が、左室補助人工心臓(LVAD)です。

●左室補助人工心臓

左室補助人工心臓には血液ポンプが身体の外に設置されるもの(体外設置型)と身体の中に植え込まれるもの(植込み型)の2種類があります。獨協医科大学病院では、日本で植込み型のLVADが2011年に保険認可される前の時代から、体外設置型のLVADを用いて重症心不全患者さんの救命に取り組んでまいりました。

●補助人工心臓の種類

血液ポンプが身体の外or中

現在、獨協医科大学病院では、心臓移植の待機が必要な重症心不全の患者さんには、主にHeartMate 3と呼ばれる最新の植込み型LVADの装着術を行っています。植込み型LVADを装着すると、重症心不全患者さんは退院して自宅で日常生活を行いながら、心臓移植を待機することが可能になります。この間に、学校へ行ったり仕事に復帰したり、社会復帰をすることも可能になります。

HeartMate 3植込み型補助人工心臓
植込み型LVAD患者さんの日常

心臓移植

現在のところ、北関東地方で心臓移植を実施できる施設はありません。獨協医科大学病院では心臓移植実施施設である東京大学病院および埼玉医大国際医療センターと連携体制をとり、北関東地方の重症心不全患者さんが手遅れになることなく心臓移植待機リストに登録され、ご自宅で安全に心臓移植待機ができるようにサポートいたします。

心筋再生医療(ハートシート)

自己の筋肉からとった「筋芽細胞」と呼ばれる細胞をシート状にして心筋に張り付け、心機能の改善を促す治療「ハートシート」は2015年9月に世界初の心筋再生治療製品として保険収載されました。現在この治療は、大阪大学を中心に行われています。大阪大学では今後、iPS細胞を用いた心筋再生治療も本格的に始まろうとしています。当院は大阪大学の心臓血管外科とも緊密な連携体制をとっており、希望される方にはこれらの治療を紹介することも可能です。再生医療に興味をお持ちの方は、お気軽にお尋ねください。